奇跡 全曲解説
19枚出してもクオリティが下がるどころか、「あんたどこまでいっちゃうの〜」と至高の高みをさらに更新しているなあ。
アレンジャーのリュウスケいわく、「原曲が送られてきた時点でトータリティーがしっかりできあがっていて、聴いた瞬間に傑作の予感がしました」という。
たぶんAKIRAアルバムを長年聴いてきたファンはフォークロックな曲や、ブリティッシュロックな英語曲、ワルツや変幻自在のリズムコントロールにまず驚くだろう。
12年間で200曲も発表し、ある意味時代を一回りして、今までの曲を新たな高みから再創造したようなアルバムだ。
さらに自由度を増したネクストステップに入り、サウンドも新しいステージに移行したという実感が確かに感じられるマイルストーン(記念碑)的なアルバムだ。
15曲からの選曲も曲順もすべてリュウスケが決めた。
コーラスで大活躍してくれたのがマッキー(Makicom Minami)である。
https://www.makicomminami.com
3児の母であり、変幻自在のスーパーボーカルで、リュウスケが大抜擢。
とくに「アヴァターラ」のコーラスは「極楽浄土いったらこのコーラスが聴こえてきそう」と確信する驚きのコーラスアレンジとなった。
アルバムデザインのたなかしのはあいかわらず神がかっていて、「青の帯に日常的風景の写真、それを白く汚すイメージ」と電光石火の直感だ。
このジャケと歌詞カードが、むっちゃ新鮮!――― 歌詞ページはこちら ―――
1. 奇跡
スリランカから新曲を送ったときにリュウスケが言った。
「この曲は今までにない斬新で骨太な曲です!
これをタイトルで1曲めにすえて、生という奇跡を散りばめましょう」
2012年に末期胃ガンで余命宣告をされたときの歌である。
このときオレは、朝起きて目が開くこと、息が吸えること、手足が動くこと、トイレに行けること、ご飯を食べれること、太陽が昇ること、気や花が風にそよぐこと、仲間や家族がいること、働けること、仕事があること、日常のすべてが「奇跡」だということに気づいた。
どうしてもルーティン的な日常に生きていると、「当たり前な日常」という奇跡を忘れてしまいがちである。
しかし60歳をむかえるオレは「生きていること、そのものが奇跡だ」という思いが日々強まっている。
もしオレが8年前に死んでいれば、そのあとの「心がくしゃみをした朝」、「勇者の石」、「HUG YOURSELF」、「インラケチ」、「ガーディアンズ」、「幸せのひみつ」、「CARAVAN」の80曲はないし、絵画の「向日葵シリーズ」、「クラウドシリーズ」も生まれてないし、2012年以降の出会いはないのだ。
あなたが「日常という奇跡」への感謝を忘れそうになったら、何度でも聞き返してほしい名曲である。2. Dead Mother
「死んだ母、それはいちばん美しい母」という「アジアに落ちる」の一節がテーマになっている。
生きているうちの対人関係、とくに家族はなんだかんだ不満だらけだろう。
しかしその人を失って初めて、大いなる存在に気づくのだ。
どんないざこざも、憎しみも、すべては「美しい思い出」に変わる。
ロックバンドONSENS初期のブリティッシュロックな曲がリュースケの斬新なアレンジで現代によみがえった。3. Millionaire of love
あなたは「私は才能がない、お金がない、愛してもらえない」とないものねだりばかりする。
ところがあなたは見える目、聞こえる耳、話せる口、歩ける足、つかめる手、美しい心、真珠のような涙、太陽のような笑顔、そして命をもらっている。
まるで神様から贈られた抱えきれないギフトをもちながら、「あたしはなんにももらってないわ」と嘆いている。
今までたくさんに人に支えられて生きてこられたのに、何ひとつ感謝せず、他人の悪口や不平不満を垂れ流している。
ところがあなた自身が愛でできている「愛の億万長者」だったことに気づいたとたん、あなたは別人へと変容し、幸福に満ちた人生を生きることになるだろう。4. イーグルアイズ
インディアンの長老がいう。
「4つの視点のどれで見るかによって同じ世界でも見え方がまったく変わってくる」
1、アントアイズ(アリの視点)
落ち込んだ時や孤独な時は自分のことしか見えなくなる。
美しい世界が広がっているのに目の前のクッキーのカスしか見えないアリのようだ。
2、ヒューマンアイズ(人間の視点)
世間の常識や道徳に縛られて、一般的な見方しかできない凡人の視点だ。
他人の目や失敗を恐れて何にも挑戦せず、他人の批判ばかりをする人間だ。
3、トゥリーアイズ(木の視点)
木は高い視点から世界を見下ろし、愚かな人間の営みを見てきた叡智を蓄えている。
しかし木は言葉をもたず、動けないので、その叡智を伝えることはできない。
4、イーグルアイズ(ワシの視点)
イーグルは木よりも高い大空を自由に飛びまわり、それらを追いかけ、捕まえ、地上のできごとに関与できる。
インディアンはイーグルアイズを「神の目」と呼び、リーダーや長老にはイーグルアイズをもつ者しかなれない。
世界を大きな視点で眺めるだけでなく、世界と積極的に関わっていく態度が必要だ。5. Dance in the rain
人は雨が降ると木陰に逃げ込み、嵐がくると身を縮めてひたすら過ぎるのを待つ。
そのような生き方をするものにとって世界は恐怖や不安や悲しみである。
しかし嵐の中に飛び出し、祝福の雨を受け止め、喜びのダンスを踊れるものだけが人生の果実を最後の1滴まで味わえるのだ。
愚か者と笑われようとも、村八分にされようとも、あなたの信じる道を行きなさい。
あなたがその道を極めれば、群衆の批判は賞賛に変わる。6. お星さま
人は死んだら灰になって消えてしまうのか?
病気でなくなる子供が言った。
「僕が死んだらお星さまになってママを守ってあげるよ。
がんばって輝いたお星さまはまた人にもどれるんだ。
そしたらまたママの子供に生まれてくるね」
これを子供のたわごととと笑うより、オレは「世界観の選び方」と考える。
彼の世界観を選んだ方が、現実を感謝と喜びをもって生きられるからだ。7. クゥリゼイウェー
「クゥリゼイウェー」は沖縄の言葉で「こぼれて幸い」、「災い転じて福となる」の意味がある。
目の前で起こった不幸な出来事も、さらに大きな災いを回避し、未来のあなたを大きく成長させる糧になるという宝の言葉だ。
このように琉球はつらい歴史をくぐりながらも、悠久の時の流れでものを見つめる視点をもちつづけてきた。
実際にガンをくぐったあとのオレは「命の傍観者」から「命の当事者」へと成長し、あふれんばかりの幸せを享受し続けている。8. サボタージ
「サボる」の原型となった「サボタージュ」は産業革命の機械化以降、労働者がサボ(木靴)で自ら働く機械を壊してストライキを起こしたことからできた言葉である。
英語では「自己破壊」や「自己否定」をセルフサボタージという。
幼い頃親から否定されて育った男女がたがいに助け合いながらつたない愛を育てていく物語である。
作曲方法もリズム先行でメロディーをつけていくという手法でつくられた斬新な曲である。9. アヴァターラ
ゲームで自分の仮想キャラを「アバター」というが、サンスクリット語の「アヴァターラ」(神の化身)が語源である。
ヒンドゥー教の神ヴィシュヌが人間や動物に姿を変えて、さまざまな問題を解決して行く神話からきている。
肉体のない神(魂、ハイヤーセルフ、宇宙の上位意識)はあなたという人間をアバターにして、人生というゲームを遊ぶ。
あなたがさまざまな困難を乗り越えるたびに神のポイントが増えるシステムだ。
つまりあなたは「神の化身」であり、あなたの魂の成長が神の喜びであり、あなたとともに神も成長する。
アバターというと、なにか神の操り人形のように思うかもしれないが、神もあなたの勇気に感動し、ともに喜び、悲しみ、ともに学んでいく平等で一体の存在なのだ。10. 悪役
「悪役」のないドラマなんておもしろくない。
あなたの「ライフシアター」という人生ドラマにおいて、悪役こそがもっとも魂を成長させてくれるキーマンであり、最も重要な存在なのだ。
悪役は誰もやりたくないので、もっとも親しいソウルメイトにあなたから頼みこんでやってもらうしかない。
悪役の意味を本当に理解すると、あなたの人生の謎が解ける。
オレを虐待した暴力オヤジや3歳のオレを捨てた母親を「悪役」として理解したとたん、彼らの「英才教育」によって今の自分がつくられたことがわかる。
いまの自分になるためにはどうしてもあの家族じゃなければだめだったと気づくのだ。
その瞬間、憎しみや恨みがとてつもない感謝へと変貌する。
これこそが「悪役」の秘密だ。11. 永遠じゃない歌
ずっと「あなたは永遠の魂だ」と歌ってきたのに、この歌は「永遠じゃない」と喉元にナイフを突きつけてくる。
魂の永遠性を否定するわけじゃないが、何度生まれ変わろうとも「あなたという意識で今ある世界を体感できる」のは、今回しかない。
その冷酷な事実を受け入れることによって、いまこの命を最大限に輝かせる行動を選ぶのだ。
迷ったときはどっちが「得」かじゃなく、どっちが「徳」かで選ぶ。
どっちが「楽」かでなく、どっちが「楽しいか」で選ぶのだ。
いまこの瞬間を「自分のしたいこと」、「自分のできること」、「美しい思い出をつくること」に集中し、理性じゃなく、直感で選び取る。
あなたに与えられた「命という奇跡」を最高に喜ばせる決断をする。
この歌はあなたの喉元にナイフを突きつけ、「あなたにそれができるか」という問いをせまっている。
ナイフが飛び出す前の、Aメロの歌詞とメロディが美しすぎて泣けてくるのよ。
ああ、こんなすごい歌誰が作ったの!12. 海と空がとけあう場所
これもラブソングのくせにとんでもないスケールをもっている。
女は命の海であり、男は恵みの空である。
ベランダから毎日スリランカの海を眺め、水平線から生まれ落ちる太陽に祈る中から誕生した曲である。
この雄大な大自然の風景も都会の小さな日常もオレには重なって見える。
人の営みはすべて神聖なものディスクから照射されたものであり、幻のような映像もすべて神聖なドラマなのだ。
この歌をモルジブの美しい海を見ながら聴いていたら号泣が止まらなくなった。
ちっぽけな人間が、ささやかな日常が、愚かしい人生が、愛しくて愛しくてたまらなくなるのだ。
おのれリュウスケめ、最強パンチの「永遠じゃない歌」と「海と空がとけあう場所」をアルバムの最後にもってきやがって!奇跡
2019年8月リリース。12曲。2500円。